Das musikalische Opfer
音 楽 の 捧 げ 物

試 聴 記

Musica, noster amor: quem non pia musica mulcet 
われらの喜悦たる音楽よ、心地よき音楽に恍惚たる思いをせざる者ありや。

New 10/14更新

書きかけ項目
ウェーバー:歌劇『魔弾の射手』 シュライアー(T)/ヤノヴィッツ(S)/マティス(S)/アダム(Bs) クライバー(指揮)シュターツカペレ・ドレスデン

 録音史上名高い演奏なので聴いておこうかというくらいの気持ちで入手したら、これが久々の大当たりだった。だいだい『魔弾の射手』自体、本気で全曲を通して聴いたこともなかったが、これは聴き始めたら止められないくらいの力がある。ペーター・シュライアー演じる正直者だが気の弱い主人公を始め、その友人で悪魔に魂を売り、揚げ句の果ては友人をも裏切ろうとする(テオ・アダム)、ヒロインの若きグンドラ・ヤノヴィッツの清楚な歌声、そして何よりこの作品で中心を占める合唱が素晴らしい。録音も適度に間接音を拾い、ヴェーバーが表現しようとした森の奥深さを感じさせて秀逸。


芸人ナージャ

Mendelssohn
Violin Concerto/Saint-Saens, Havanaise, Introduction & Rondo capriccioso/ Massenet, Meditation from "Thais"
Salerno-Sonnenberg(Vn), Schwarz / Ny Chamber.so +etc
メンデルゾーン「ヴァイオリン協奏曲」、サン=サーンス「ハバネラ」「序奏とロンド・カプリチオーソ」、マスネ「タイスの瞑想曲」/ナージャ・サレルノ=ソネンバーク(vn)/シュウォーツ指揮ニューヨーク室内交響楽団

 推薦とはいいがたいが、名教師ガラミアンと喧嘩をしたり、クラシック界の反逆児ナージャとして、何かとお騒がせなソネンバークのメンデルスゾーン。料理中に小指を「切り落として」(!  本当に?しかしそう書いてあった)、復帰に一年以上掛かったとか、話題に事欠かない人らしい。演奏も、コンサート・ホールよりも街頭が似合いそうな、サービス精神満点のもの。弱音がすすり泣くように極端な微音になったり、テンポを自在に動かしたり、大道芸のようなヴァイオリン。現代の若手演奏家のあまりに完成度の高い演奏を聴き続けたあとには、一世紀ほど前の雰囲気をもったこの演奏が妙に新鮮に映る。ブラームスのようにしっかりした曲では、それがあまりに下品になってしまうが、このメンデルスゾーンはナージャのそうした演奏がプラスになっている。二つの小品集Famous Violin PiecesHumoresqueは、ナージャの芸人精神の面目躍如といったところがある。後者のアルバムにはジャズ・ヴォーカルまで入る。全体に「芸風」が面白いが、あくが強いのでそう度々聴く気にはなれないが、現代の演奏家のなかでは、異彩を放っているのは確か。


デュメイのブラームス『ピアノ三重奏曲』

Brahms
Trio for Piano and Strings no 1, no. 2
Dumay, Augustin (Violin), Pires, Maria-Joao (Piano), Wang, Jian (Cello)
ブラームス「ピアノ三重奏曲」デュメイ(vn)/ピリス(pf)/ワン(vc)

 最近半年くらいに入手したなかでは、録音・演奏ともにベスト。ダイナミック・レンジもかなり広め。この頃のグラモフォンは、オン気味でそれぞれの楽器の音をたっぷり録る以上に、ホール・トーンを豊かに捉えて、空間的な広がりを聴かせる。この録音では、特にその効果が著しく、冒頭のワンの深々したチェロからピアノが入り、ヴァイオリン・ソロが加わっていく音の拡がりが実に美しい。演奏としても、伸びやかな曲想に相応しく、存分に歌い込まれた名演。スーク・トリオの「ピアノ三重奏曲全集」は、端正で安心して聴ける名演だし、イザベラ・ファウストたちの演奏も緻密で練り上げられた演奏だが、デュメイ・トリオのこの演奏は闊達さと掛け合いの妙が傑出している。


シマノフスキーの協奏曲

Karol Szymanowski
Concerto for Violin and Orchestra, No. 1, Op. 35/ Saint-Saëns, Havanaise in E/ Chausson, Poeme, Op. 25
Nicola Benedett (vn)/ Daniel Harding/ London Symphony Orchestra: Grammophon 9874184 (2005年)
シマノフスキー「ヴァイオリン協奏曲」、ショーソン「詩曲」ほか/ニコラ・ベネデッティ(vn)/ハーディング指揮ロンドン交響楽団

 使用楽器は1751年Petrus Guarnerius of Veniceとあるので、これは3代目のヴェネチアのグァルネリ(叔父のマントヴァのグァルネリとは別人)。華やかで響き渡るというよりも、しっとりと甘く鳴り、特に中域・低域が豊かなので、シマノフスキーやショーソンのような内省的な曲に向いている。ハーディングのバックも安定して壮大な曲調を際だたせている。アルバム全体の曲の選別も良くできていて、すべてがある種のMeditationesのような性格をもっている。小品としてハイフェッツ編曲のブラームスのContemplationやマスネの「タイスの瞑想曲」が入っているのも納得がいく。しかし、このCDには不思議なことがあって、最後にオーケストラ伴奏だけの「タイスの瞑想曲」が収められている。ソロ部分を欠いたカラオケ、いわゆる「マイナス・ワン」である。なぜこんなお遊びが必要なのか、よく理解できない。


ミヨーの協奏曲

Dalius Milhaud
Violinkonzerte No. 1 & 2, Concertino de printemps, Le boeuf sur le toit
Arabella Steinbacher (vn)/ Pinchas Steinberg/ Münchner Rundfunkorchester: Orfeo C 646 051 A (2005年)
ミヨー「ヴァイオリン協奏曲」、「屋根の上の牡牛」/アラベラ・シュタインバッハ(vn)/シュタインベルク指揮ミュンヘン放送交響楽団

 実演では滅多にプログラムに取り上げられることはなく、録音も少ないミヨーのヴァイオリン協奏曲。しかし颯爽として引き締まったなかなかの名曲。日本人を母とするアラベラ・美歩・シュタインバッハのヴァイオリンもかなり良い。最後の「屋根の上の牡牛」は、ヴァイオリン曲ではないが、賑やかなバレー曲で楽しい。ブラジル音楽を元にして、リフレインが12回あるが、そのすべての調性が替わっていく。大道芸やキャバレーなどの雰囲気濃厚で、実に元気が出る楽しい曲。
 シュタインバッハの使用楽器は、日本音楽財団から貸与されているストラディヴァリウス1736年製ヴァイオリン「ムンツ」とか。このムンツというのは、イギリス人のヴァイオリン・コレクターの名前。日本音楽財団は、もう一本、かつてムンツ・コレクションであったデル・ジェスも所有している。


ブラームスの室内楽全集

Brahms
Chamber Music (complete): Brilliant Classics 99880
ブラームス/室内楽(全集)

 ブリリアントの廉価盤ボックス。12枚のCDでブラームスの室内楽を網羅する。演奏も、東京SQやブランディスSQ、ナッシュ・アンサンブル、クラリネットのライスターなど、かつて単品としてリリースされていたものを集めている。とりわけブランディスSQの弦楽五重奏曲の2曲は、それほど多くはないこの曲の録音のなかでもベスト盤に近いと思う。ヴァイオリン・ソナタ(G. Pauk [vn])は気の抜けた演奏で釈然としないが、その他はかなり聞き応えがあって、コスト・パフォーマンスは高い。それにしても、ブラームスの曲は一曲一曲が実に丹念に作られている印象が強い。


二つのイザイ

Ysaye
Six Sonatas Op. 27
Philippe Graffin (vn), Pascal Devoyon (pf): Hyperion Helios CDH55226

イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ/グラフィン (vn)

E. Ysaye
Sonataes pour violon solo
Thomas Zehetmair (vn): ECM
イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ/ツェトマイアー (vn)

 イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタのかなり性格の異なった演奏。イザイのこの曲集は、元々バッハの無伴奏やクライスラーなどを下敷きにして、聴きようによってはかなりたちの悪いパロディのようにも思える綺想に富んだもの。ツェトマイアーのものはその辺りをかなり鋭角的に際だたせて、ECM録音も恐ろしく鮮明。ECMは元々ジャズとクラシックを中心に、ミュンヘンで旗揚げした会社だが、その録音は定評がある。一方、グラフィンも、現代の若手ヴァイオリニストのなかでもおそらく群を抜いてテクニックは優れている。こちらのイザイは、もう少し全体の響きや歌に配慮した仕上げになっている。ツェトマイアーは気軽に聴く気にはなれないが、グリフィンはかなり心地よいイザイになっている。